52匹目 判明する意味
――ドォン!
研究所の扉が吹き飛ぶ。
またか。いつもこの扉は破壊される。もう何度目だろうか。
すると案の定、廊下からゾロゾロと屈強そうな男たちが入ってくる。
「カジ! まだ魔王様の性欲解消方法は見つからないのかァ!」
「ひぇっ!」
「『パツキン』と『クッコロ』の意味は判明したのか!?」
「ま、まだです……」
予想していたとおり、男たちの列の奥からギルダと魔王のおっさんが現れた。ギルダの表情は憤怒に満ちており、そろそろ我慢の限界であることが分かる。
僕だってさぁ、一生懸命『パツキン』と『クッコロ』の意味を考えているんだよ!
自分でも分からないことを僕に押し付けるなよ、クソ上司!
一方、魔王のおっさんは車椅子に乗せられ、いつものようにぐったりとしていた。
そんな彼らの様子を見たジョシコウセイたちが、瞬時に研究所の奥にある自分の寝床へと隠れる。彼女らにはギルダたちに嫌な思い出があるため、あまり顔を合わせたくないと思う。
以前に彼女たちを閉じ込めていた地下牢へ続く扉の鍵は僕が管理しているため、ギルダは彼女たちを玉座以外の場所で見ていない。彼女らをここに住まわせていることを知らないはずだ。
クリスティーナは研究所の隅にポツンと立っており、僕が怒鳴られる様子を見つめている。
「もうそろそろ魔王様も待ち切れないぞ、カジよ」
「そ、そうですよね……」
「のん気に帝国兵の女性捕虜などで遊んでいる場合ではないぞ」
「あ、遊んでなんかいません! 彼女は捕虜交換用の人質として……」
「言い訳などいい! さっさと魔王様の仰った言葉の解明を――」
――そのときだ。
「パツキン……クッコロ……!」
「え?」
魔王のおっさんが呟く。
この研究所内にいる、とある人物を指差しながら――。
「――私のことを指しているのか?」
「クリスティーナ……?」
魔王のおっさんは間違いなくクリスティーナを指差していた。
つまり、おっさんは彼女が『パツキン』と『クッコロ』に関係していると言いたいのだろうか。
「オイ、コノオンナガ、オマエノイウ、パツキントクッコロナノカ?」
「アノヒト……パツキン……タブン、クッコロ」
ギルダとおっさんが異世界の言語で何かを喋る。おっさんに何か確認を取っているようだった。嫌な予感がする。
「おい、カジ!」
「な、何でしょう?」
「今すぐ触手モンスターを用意しろ!」
「へ? どうして急に……」
「おそらく、その女が『パツキン』であり『クッコロ』だ」
ここで僕は理解した。
おっさんの言葉『パツキン』そして『クッコロ』とは女性の何かを指すものだ、と。
そして、偶然にもそれがクリスティーナに一致してしまったのだ。
「おい、さっさと触手を用意しろ!」
「は、はい……」
僕はギルダに促されるまま、エクスキマイラを飼育している施設へと走り出した。
* * *
――数分後。
僕はエクスキマイラを連れて研究所へ戻ってきた。
「カ、カジ? そのでかいモンスターをどうするつもりなのだ!?」
エクスキマイラの姿を見たクリスティーナが腰を抜かして、その場へ座り込む。
彼女の様子にギルダはニヤリと笑い、僕とエクスキマイラにさらなる命令を下した。
「さぁ、カジよ。その女に醜い触手を纏わり付かせてやれ」
「ご、ごめん。クリスティーナ……」
「カジ……?」
「エクスキマイラ。クリスティーナに触手を纏わせるんだ」
「ワカリマシタ。オトウサン」
何本もの触手が彼女へゆっくりと伸びていく。
「や、やめろ!」
クリスティーナは叫んだ。
「触手だけは……ダメなんだ……!」
顔面が蒼白になり、その目には涙が浮かんでいる。
「ぁ……っぁ……!」
彼女に触手が纏わり付く。
次の瞬間、彼女の声は声にならなくなり、触手への恐怖で掻き消されていった。
その反応は異常とも言えるほどだ。彼女には触手への特別な恐怖があるように感じられる。
僕はそんな彼女を見ていられず、目を背けてしまった。僕が命令したことなのだから、本来背けるべきではないのに。
「コレヲ……モトメテイタ」
おっさんが呟く。口元が緩み、目が笑っている。
クリスティーナが触手に纏われていることに満足げな表情を浮かべていたのだ。
「ほう、これが魔王様が求めていたものですか」
「こんなことを……異世界人は好むのですか?」
クリスティーナは触手に抱えられ、宙に持ち上げられる。すでに彼女は気絶しているようだ。
それとは対照的に、魔王のおっさんは珍しく生気に満ち溢れていた。蒼白だった顔は紅潮し、衣服の上からでも分かるほど性器部分が盛り上がっている。
「おお……素晴らしい。カジ、よくぞこれを発見してくれた」
「……」
「貴様には礼をやろう。研究費も増額してやるし、幹部内での地位も上げてやる」
「……」
ずっと僕に付き纏っていたギルダからの依頼。
今それが達成できたのだ。
やっと、終わった。
これでもう触手モンスターを合成しなくていい。
僕は辛い触手地獄から解放される。
でも、僕にギルダからの言葉は届いてなかった。
クリスティーナ。
僕は気絶している彼女のことが気になった。
「エクスキマイラ! 彼女を下ろしてくれ!」
触手はゆっくりと解かれていき、粘液まみれのクリスティーナが床へ寝かせられる。僕は彼女の傍に駆け寄り、彼女の上半身を抱え起こす。
「大丈夫か!? クリスティーナ!?」
「カジ……?」
「ごめん……こんなことになってしまって」
クリスティーナは薄く眼を開けて、僕の顔を探す。意識が朦朧としているようだった。
僕らの様子を見ていたギルダは「フッ」と笑い、おっさんの車椅子を押して研究所を出ていく。
「それじゃあな、カジ。その女が魔王様に役立てるよう、こちらで手配しておく。その女を引き止めておけよ」
ギルダも部下もゾロゾロと研究所を出て行った。
「カジ……?」
「もう終わったから、大丈夫。さぁ、粘液を取り除かないと……」
こうして僕はぐったりしている彼女を背負い、城内の浴場へ向かった。彼女の纏った粘液は僕の服も汚してきたが、そんなのどうだっていい。早く彼女を安静な状態にしてあげたかった。
* * *
今回の騒動で、クリスティーナがおっさんの求めていた最後のパーツであることが判明した。
もう触手を生産する依頼は来ないだろう。
でもそれは、彼女がおっさんの前でこれからずっとあのような行為をしなければならないことを示していた。
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