21匹目 後輩の不祥事

「――と、まあ、こんなことがあったんですけどね」

「へぇ……あなたも大変なのね」


 僕は自分とニルニィの関係をルーシー姐さんに全て話した。

 話している間も僕は彼女に膝枕された状態であり、僕はずっと彼女の顔と豊満な双丘を見上げていた。


「この関係をルーシー姐さんならどうします?」

「うーん、そうねぇ……彼女を信頼できる人に預けてみるとか?」

「なるほど。それなら、彼女は他者との関わりに慣れつつ、僕も安心できますね」


 確かに良案だった。

 しかし、問題はニルニィがそれに応じるか否かだ。多分、極度の人見知りである彼女は反対してくるだろう。

 それと、『誰に預けるか』という部分も問題だ。僕の信頼できる人物と言えば、豚鬼オーク族長、デュラハンなど……信頼できても外見が威圧的に見えてしまう人物が多い。そんな人物のところへ預けるのは、彼女にとってハードルが高いだろう。

 誰か、物腰柔らかで優しく接してくれそうな人物はいないだろうか。


 そんなことを考えていたら――


「それじゃ、アタシにニルニィちゃんを預けてみない?」


 姐さんが提案してきた。彼女は自分に指差し、アピールする。


「え、ルーシー姐さんに預けるんですか?」

「あら、アタシ、そんなに信用ないかしら?」

「そうじゃなくって、姐さんがニルニィをどういう風に扱うのか想像できなくて」

「別に乱暴なことはしないわよ。酒場の手伝いをさせたいの」

「ニルニィにバニーガールの格好でもさせて、客に色んなサービスをさせるんですか?」


 僕の脳裏には、ウサギの耳を付けたニルニィが客に色々と振り回される姿が浮かんでいた。ニルニィもなかなかの美人だし、それはそれでアリかもしれない。


「違うわよ! 酒樽ってけっこう重いから、それを運ばせたいの!」

「ああ、なんだ。力仕事ですか……姐さんのことだから、彼女に体を売らせるのかと思いましたよ」

「あら、それがいいなら、そっちの方向でも仕事させてみるわ。そうねえ……経験人数3桁いくまでは頑張ってもらおうかしら」

「えぇ……?」

「冗談よ」


 姐さんはくすくすと笑う。怪しく光るその目には、狂気が溢れているように感じた。

 本当に実行しそうなのが恐ろしい。恐いからやめてくれ。


「で、どうするの? アタシに預けてみる?」

「そうですね。ニルニィと相談してみます。それまで待っていてもらえませんか?」

「分かったわ。ニルニィちゃんによろしくね」


 ルーシー姐さんは僕の頭を撫で、膝枕を終了した。僕をソファベッドに寝かせ、研究所の出口の方向へ歩いていく。しかし、あと一歩で出口というところで、彼女は足を止めた。


「あ、ところで……」

「どうしました?」

「ギルダからの依頼のこと、ニルニィちゃんに伝えたの?」

「いや、まだ伝えてません」

「そうねえ。伝わると面倒そうだものね。それじゃあ、体調を崩さないように頑張っ……ん?」


 ルーシー姐さんは何かの気配を探知したのか、研究所のドアを開けた。どうしたのだろうか。僕も気になってドアの向こうを見てみたのだが、そこには何もなかった。


「どうしました?」

「今、そこに誰かがいたような気配がしたのだけれど、気のせいかしら?」








     * * *


 ルーシー姐さんとの相談の後、僕は翌日の朝まで熟睡した。今まで仕事で睡眠を取れなかった分、しっかりと体を休めた。そのおかげで気分は最高だ。


 またフレッシュな気持ちで仕事を頑張ろう。

 でも、体調崩して迷惑かけないようにはしないとな。


 僕は研究所のベッドから起き上がり、背伸びをする。

 これまでの生活態度を見直し、心を入れ替えて仕事しなければ。

 そんなことを考えながら、僕は自分の机に向かった。


 そのときだ。


 ――バァン!


「カジ・グレイハーベストはいるか!?」


 研究所の扉が破壊され、室内へと吹き飛んだ。すると、廊下から鎧を着た屈強そうな男たちがゾロゾロと入ってくるではないか。


 え?

 一体何なんだ、これは?


 彼らは僕を取り囲み、両脇を抱えた。


「ユーリング様、カジ・グレイハーベストを拘束しました」

「え? え?」

「ご苦労だな、諸君」


 鎧の男たちの最後尾から現れたのはギルダの部下、ユーリングである。格調高い衣装を身に纏い、その高身長、いかつい顔で僕を見下ろしていた。相変わらず恐い。

 ユーリングがいるということは、これはギルダの仕業か?

 一体、僕はこれからどうなるんだ?

 というか、僕は一体何をしたんだ?

 何で拘束されるんだ?


「あ、あのぉ、ユーリングさん? これは一体?」


 僕は恐る恐る彼へ声をかけてみた。


「貴様には公務執行妨害、及び、魔王暗殺未遂の疑いがかけられている。お前を拘束し、この研究所を家宅捜索するのだ!」

「は?」

「何だ? 知らないのか? とぼけても無駄だぞ? 貴様の部下、ニルニィが我々の部下たちを重傷に追い込んだのだ!」

「へぇっ!?」

「魔王様の警護中だった部下が、彼女によって腕や脚を折られ医療施設へと搬送された。貴様にはその暴行を指示をしたという疑いがある」


 ニルニィが!?

 アイツ、僕の知らないところで何やってんの!?


「連れて行け」

「ハッ! 承知しました、ユーリング様!」

「ちょっと!? ええっ!? ニルニィ!?」

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