13匹目 【勇者編】みんな苦手なものがある

「それで、村の中にそのモンスターを討伐しに行った者はいるか?」

「ああ、いるよ。ウチの娘だがね」


 日が沈み、宿では夕食の時間になった。

 翌日のモンスター討伐作戦を練りながら、夕食をとることにしたのだ。モンスターの情報を得るため、老婆を食事に招き、話を聞く。


「娘? 婆さん、娘がいるのか?」

「年はあんたらと同じくらいで、剣の扱いを修行してるのさ。以前、『私がこの村を守る!』とか言って、ヤツを討伐に行ったんだけど」

「娘さんはどうなった?」

「すぐに帰ってきたよ。やっぱり恐くなったらしくてねぇ」

「なぁんだ」


 そんな話を聞きながら、俺たちは料理を口へ運んでいく。

 老婆が予め述べていたように、出されたのは山菜と穀物を中心とした質素な料理だ。しかし、なかなかうまい。


「娘さんは今どこに? 彼女からもモンスターに関する情報を聞きたい」

「薪を拾いに行ったよ。そろそろ帰ってくると思うんだけどねぇ」


 そのとき――


 ドタン!


 ドアを閉める音が鳴り、外から長い金髪の若い女性が入ってくる。今まで森の中で作業をしていたらしく、彼女が纏っている茶色の作業着が落ち葉や泥で汚れていた。

 彼女がこの宿屋の娘だろうか。


「ああ、クリスティーナ。おかえり」

「ただいま、母上。この方々は?」

「ああ、宿のお客さんだよ。あんたも挨拶しておきなさい」

「クリスティーナ・アイリヤだ。よろしく冒険者殿」


 クリスティーナと名乗る女性は微笑んだ。

 彼女はキリッとした顔立ちの美人であり、特に目を惹くのがその体格で――


「その、すごく大きいですね」

「えっ?」

「あ、いえ。何でもありません。こっちの話です」


 魔術師ミアがぼそっと呟く。

 お前、絶対にクリスティーナの胸のことを言っただろ?

 自分にないからって、あんまりジロジロ見つめるなよ。


 クリスティーナの胸は服を破ろうとするが如く、大きく前方へ突き出していた。それでいて、立派な形を保っている。


「アタシはオルネス。よろしくね!」

「俺はカイト。ある任務で旅をしているんだが、この辺りに住み着いたモンスターに興味が沸いてな。討伐するために、クリスティーナの知っている情報を聞きたい」

「えぇ? ア、アイツのことを?」


 クリスティーナの顔が真っ青になる。手が震え、目がキョロキョロと動いた。

 何をそんなに動揺しているんだ?


「あ、あのモンスターはかなり強いぞ。ヤツを捕食しようと近づいたサラマンダーが逆に倒されるのを見たことがある」

「サ、サラマンダーを!?」

「しかも、ヤツはサラマンダーを絶命させるのに数分とかからなかった」

「ほ、本当なのか?」

「ああ、ほんのちょっと触れただけで殺してしまったよ」


《サラマンダー》

 熟練した戦士でも苦戦する小型の陸生ドラゴンだ。サンショウウオのような姿だが、その動きは機敏で、獲物を巨大な口で丸呑みする。年間で膨大な犠牲者数を出しており、狩人が逆に狩られたという例も多い。


 だが、例のモンスターはそんなドラゴンすら簡単に倒すようだ。

 この情報が正しいならば、討伐作戦は一筋縄ではいかないだろう。


「他に、ヤツの特徴はあるか?」

「そうだな。外見は巨大なタコという感じだ。ギョロっとした巨大な目玉に、内臓がある部分は硬そうな皮で覆われている。それと……」

「それと?」

「あの、触手が」

「触手?」


 クリスティーナの顔はさらに真っ青になっていく。

 何か嫌な光景でも思い出しているのだろうか?


「わ、私は、あの触手がダメだのだ!」

「えぇ?」

「くねくねとしたあの不規則な動きとか、あのぬるぬるした粘液とか、見るだけで嫌悪感に襲われたのだ!」

「そ、そうか」

「だから、初めて見たときに戦意喪失してしまって。逃げ帰ったんだ。だから実際に私が戦ったわけではない。提供できる情報は外見的なものだけに限られてしまうが、これでよろしいだろうか?」


 どうやら、彼女はそうしたくねくねした生物が苦手らしい。

 人間誰しも苦手なものはある。それも仕方ないだろう。


「大丈夫ですよ。実際、ワタシも昆虫系モンスターが大嫌いですし。自分の苦手をあまり責めないでください」

「そうそう! アタシも、魚系のモンスターは苦手だなぁ! ぬるぬるした鱗とか、気持ち悪いもーん!」

「そう言ってくれると助かる」


 そんな感じで、夕食は終了した。

 判明したのは、そのモンスターはタコみたいな外見で、かなり強いらしいということだ。







     * * *


 ただ、外見的な特徴をモンスター図鑑に照らし合わせてみたのだが、これまでそのようなモンスターは確認されていないらしい。


 その化け物はかなり希少な種類なのだろうか?


 それとも、誰かが魔術で作り出したのだろうか?

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