6匹目 聖剣エクスカリバー
「――聖剣エクスカリバー?」
「そうだ。かつて帝国軍が魔族と戦った際に作り上げた最強の兵器だよ」
僕もその古代兵器に関しては文献を読んだことがある。
* * *
《聖剣エクスカリバー》――数千年前、魔族と人間との大戦が勃発したときに人間側の魔術師が集結して作成したと言われる最強の兵器だ。全てを切り裂ける超高威力の攻撃を繰り出すことが可能らしい。適合者にしか使用できないという制約があるが、その人物へ渡った場合には大きな脅威となる。その適合者のことを『勇者』と呼び、帝国軍は祭り上げていたようだ。
この兵器の登場によって、魔族には多数の死傷者が出た。魔族領の街は死体の山で埋まり、川や海は血で赤く染まったという。
そうした事態を重く見た当時の魔王が直々に戦場へ赴き、勇者は倒された。そのときの戦闘で戦場の地形が大きく変化し、エクスカリバーは土砂の中に埋もれて所在不明になったらしい。
その物語の結末は、両陣営が戦争で疲弊し講和条約を結ぶというものである。
* * *
この話は魔族領に伝わる童話みたいなものだ。僕も親にこれを読み聞かされて育った。
これを初めて聞いた当時は『地形が変わるほどの戦闘って、どれほどすごい戦闘だったのだろう?』なんて考えていたものだ。
「あれはただの昔話だと思ってましたけど」
「いや。エクスカリバーは実在する」
「え、そんな……」
僕は『戦争の悲惨さを伝える』というのが物語の主旨だと思っていた。
デュラハンの話を聞く限りでは、エクスカリバーの恐ろしさを後世にも伝えるために簡潔な昔話にしたのだという。
「それで、エクスカリバーは今どこにあるんです?」
「帝国領の戦場跡にあったらしい」
「らしい?」
「我々は、そのエクスカリバーの発掘作業が極秘裏に行われているという情報を耳にした。その情報を基に、軍を率いてそこへ奇襲をかけたのだが――」
「エクスカリバーはなかった?」
「ああ。武装した作業員数人を殺害したが、それらしきものは発見できなかった」
数週間前、『魔王軍の中でデュラハン直属の部隊が動いた』という情報は僕も耳にしていた。
彼の部隊は屈強な兵士が多い。デュラハンが直々に鍛えた戦士たちだ。彼らが参加した作戦は成功率が高く、魔族内で重要な任務を遂行する。
その採掘場奇襲も、魔族内では重要な作戦だったのだろう。
「では、エクスカリバーは幻だったんじゃ」
「いや。そこに残されていた書類などの記録から、すでに発掘が完了して帝都に発送済みであることが判明した」
「まさか、本当に?」
「そのまさかだ」
酒場が重い空気に包まれる。
僕の首に冷や汗が流れた。
街を死体で溢れされ、川や海を赤く染めた兵器。
本当に、そんなものが存在するのだろうか?
「昔話での地獄が再現されようとしている?」
「ああ。今頃、帝都ではエクスカリバー適合者――『勇者』の選定を行っているのだろう」
デュラハンは冗談などを言う男ではない。
彼の低い声で発せられる一言一言が、僕の心に重く圧しかかる。
「本当は内輪揉めなんて起こしている場合ではないのかもしれない」
「そうかもしれませんね」
「カジ、お前も戦闘が激化するかもしれないことを頭に入れておいてくれ」
「分かりました」
* * *
それから僕は研究室へ戻った。
「あ、先輩! どこへ行ってたんです!?」
「あ……あぁ、ごめん、ニルニィ」
「先輩、お酒臭いです! まさか昼間から飲んでいたんですか!?」
「うん……」
「そうですか……」
あれ?
ニルニィの顔が急に不安を帯びていく。
「もしかして、それだけ何か嫌なことがあったんですか?」
「いや。大丈夫」
僕の前ではいつも元気で明るく振舞うニルニィだが、稀にこうした勘が働くことがある。
今、僕が召喚士から引き受けている任務――失敗すれば僕の首が飛ぶかもしれない。
いや、地位が下げられるだけならまだいい方だ。ギルダならもっと下衆なことをやってこないとも限らない。スパイであることがバレたりしたら尚更だ。
こんなことに、助手のニルニィをあまり巻き込みたくない。彼女もこの依頼に関わっていることがギルダに知られたら、もし失敗したときに彼女にも何かペナルティが科せられるかもしれない。
だから僕は、彼女にこのことを黙っておくことにしたのだ。
「ところで、また発注が来てたんですけど、取りかかりますか?」
「うん。そうだね。依頼主は?」
「
ああ、そう言えば以前に魔王召喚の儀式でそんなことを言われた気がする。
ドタバタしていてすっかり忘れてしまっていた。
「先程、族長さんから素材が届きました。『飛竜を2体作ってほしい』とのことです」
「分かった。すくに始めよう」
* * *
こうして、その日は依頼をこなしてニルニィを帰宅させた。
深夜、僕はこっそりと触手生物を合成する作業を開始したのだ。
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