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『もう一度、あの人に抱かれたい』
いつからだろう、そう思うようになったのは……。
もう一度……
あの逞しい腕の中で……
殻を脱ぎ捨て、身も心も愛されたい。
本能のままに……
あなたを受け入れたい。
でも、それは叶わぬこと。
――オフィスビルを出ると、太陽の眩しい光に思わず瞼を閉じた。
走り寄る逞しい靴音がアスファルトに響く。
「待て」
少し怒ったような男の声が鼓膜を刺激する。振り向くと男の影が陽炎のようにゆらゆらと揺れていた。
「このまま行くつもりか」
ぼやけた視界の中で、男が自信ありげに口角を引き上げる。
「俺はもう一度、お前を抱きたいと思っていた」
コツコツと近付く靴音。
持っていた紙袋がアスファルトの上に落ちる。
逞しい腕に引き寄せられ、強く抱き締められた。雷に打たれたような衝撃が体を走る。
吸い寄せられるように重なる唇。人目も憚らず、交わされる激しいくちづけ。小さな水音が雨雫のように音を奏でる。
――あの夜と同じ……。
灼熱の太陽の如く、恋はじりじりと身を焦がす。
それは熱線のように……
熱く……激しく……。
琴子の白い肌に……
永遠の愛を刻み付けた。
【完】
◇◇
室内に赤ちゃんの元気な泣き声が響く。
「母さん、ひなが泣いてるよ」
「はーい、先生」
テーブルの上に置かれた一冊の文庫本。先生が私のために自費で製本してくれた非売品。
セシリア社から、改稿を条件に出版の話をいただいたが、先生は首を縦に振らなかった。
開かれたページが、窓から吹き込む風にぱらぱらと音を奏でる。
緩やかな……
時が流れ……
幸せは……
やがて小さな実をつける。
『プロローグは刺激的に』
――私だけの……
ラブストーリー
〜The end〜
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