エピローグ

270

 ◇◇


「僕達はもう終わりなんですね」


「ごめんなさい。私……」


「あなたの気持ちが僕にないことは、初めからわかっていました。でも僕は本気であなたが好きだった。どうかお元気で……」


「瀬戸さん、ありがとう……。さようなら」


 琴子は微笑み瀬戸に背を向ける。両手には私物の入った大きな紙袋。

 瀬戸のプロポーズも、中条との深い関係も断ち切り、琴子は退職する道を選んだ。


 二人との関係に溺れたのは、体に刻まれた吉岡の痕跡を消し去りたかったから。


 でも……

 他の男性と体を重ねても、吉岡の痕跡は何ひとつ消し去ることは出来なかった。

 それどころか、日々想いは深まるばかり。


 吉岡の唇が琴子の体に火を灯し……

 吉岡の逞しい体が女の性を目覚めさせた。


 吉岡の熱い息が琴子の身を焦がし……

 吉岡の熱い眼差しが琴子を狂わせた。


 職場で吉岡に見つめられるだけで、鼓動は速まり足はすくんで動けなくなる。

 もはや仕事など手につかないくらい、琴子の心は乱されていた。


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