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座敷に戻ると、先生は目を見開いた。
その優しい眼差しに鼓動がトクンと跳ねる。
――宴会は深夜まで続き、いつの間にか主役は親戚のおばちゃん軍団に代わる。マイクを手に熱唱する美熟女達。アイドルグループになりきり室内は爆笑の渦。
「先生、疲れたでしょう」
「かなりな」
「もう抜け出しましょうか。いつも深夜までドンチャン騒ぎですから」
「それだけは勘弁だな」
「私の部屋は二階です」
私は先生の原稿を胸に抱き、二階に上がる。部屋は私が暮らしていた当時のままだったが、シングルベッドには真新しい枕が二つ並んでいた。
母の気遣いが、妙に恥ずかしい。
「狭いけど、ここが私の部屋なの」
「まひる」
「はい」
「今日の君は、とても綺麗だよ」
「先生……」
先生は懐から指輪ケースを取り出す。ケースを開けるとプラチナのペアリング。
「安物だが今の俺にはこれが精一杯だ。受け取ってくれ」
東京を離れる前に、区役所に婚姻届を提出した私達。先生が今日のために、指輪を用意してくれていることは知らなかった。
素敵なサプライズに、胸に熱いものが込み上げる。
先生は私の左手を取り、薬指にリングを嵌めた。
私も先生の左手の薬指に、リングを嵌める。
――二人だけの結婚式。
「これで俺達は晴れて夫婦だ」
「はい」
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