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 別室で美容師の従兄に髪を結ってもらい、母に振り袖を着せてもらった私は、成人式で着た赤い振り袖がちょっと気恥ずかしい。


 今年二十九歳になる私には、かなり派手だ。


「まひる、写真館で記念写真を撮ったら、焼き増しして母さんにもちょうだいね。やっぱりウェディングドレスより白無垢がええね」


「うん」


「まひる、幸せは他人が決めることじゃない。まひるが幸せなら父さんも母さんもそれでええよ」


 着付けが終わり、母は私に赤い紅をさす。

 鏡に映る私を見て、瞳を潤ませ優しく微笑んだ。


「幸せになりなさい」


「……母さん。ありがとう」


 派手で豪華な挙式披露宴をしなくても、幸せな結婚は出来る。純白の白無垢やウェディングドレスを着なくても、綺麗な花嫁になれる。


「私……父さんと母さんの娘で幸せでした」


 母は私を見つめ、涙を零しながら頷いた。


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