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しゃくに障る言いぐさだ」


「それはこちらのセリフですよ。只野先生の小説を世に出すために、私がどれだけ頑張ったと思ってるんですか?」


 編集者のくせに口が悪く、生意気な女だが意外といい奴かもしれないな。

 人間不信だった俺は長い間殻にこもっていたが、彼女達のお陰で少しずつ殻を破ることが出来た気がする。


 担当は段ボール箱をガサガサ漁り小説を選別している。

 僅か数頁しか読んでいないくせに、タイトルと内容を把握し実に手際がいい。


「ではこの二作品をお借りしますね。『炎の舞』と『陰陽師紅桜』タイトルはもう少しインパクトのあるものに変更した方がいいと思います。どちらかが書籍化されるように担当として尽力致します」


「みやこ、宜しくお願いします。私は『炎の舞』が好き。もしも先生の小説が書籍化されたら、私達……結婚するの」


「えっ?まひる、それって書籍化されなかったら結婚出来ないの?そんな無謀な賭けしたの?それじゃ、一生お嫁に行けないよ。おばあちゃんになったらどうするの」


「君、今、書籍化になるように尽力するといったくせに、無謀な賭けとはなんだ。一生嫁に行けないとは、一生書籍化されないと言いたげだな」


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