256

 担当の気迫に圧倒され、俺は彼女に視線を向ける。彼女の率直な意見が聞きたい。


「先生、挑戦しましょうよ。ボツになっても、また頑張ればいいじゃないですか」


「お前は楽天的だな」


「はい、楽天的でなければ、先生と同棲は出来ません」


 俺達は単なる同居ではなく、結婚前提の同棲。この俺が、彼女のヒモであっては断じてならない。

 彼女の言葉にむくむくと闘志がわく。


「わかった、引き受けよう。どの小説を手直しすればいい」


「只野先生、幾つか原稿をお預かりしていいですか?企画会議で提案し選出します」


 俺は原稿の詰まった段ボール箱を取り出す。箱の一番上には、彼女のために書いた恋愛小説。

 タイトルは【仮】、まだ決まっていない。担当はすぐさまその原稿を手に取る。


「只野先生これは?新作ですか?」


「それはダメだ。もう行き先は決まっている」


 俺は担当から原稿を奪い返す。


「他社への持ち込みですか?只野先生も色々大変ね」


「嫌味を言う暇があったら、早く選べ」


「はい、はい、そう焦らせないで下さいよ。二人の邪魔はしませんから。我慢できなければ続きをどうぞ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る