253

 縁側の掃き出し窓を開けると、開口一番、元担当が皮肉を言う。まるで餌を見つけたカラスのように『カァカァ』と煩い。


「朝っぱらから、ヤらしいな。男と女がひとつ屋根の下にいると、女性に興味のない只野先生でもそうなるんですね。それともムッツリなんとかですか?まひる、セクハラされてるなら訴えなさい」


「失敬な。覗き見するなんて下劣だぞ。何がセクハラだ」


「見たくて見たわけじゃないわ。チャイム壊れてるし、庭に回ったらこれだ。見せつけているのはお二人でしょう。まひる、いつから只野先生と付き合ってるの?」


 彼女が俺をチラッと見る。

『話していい?』と、彼女の目が俺に問い掛けている。


 抱き合いキスをしている場面を見られたんだ。付き合っていないと言えば、俺は家政婦に手を出したセクハラ作家になる。元担当のことだ、警察に通報しかねない。


「先月、先生と箱根の温泉に行ったの」


「温泉?そこで無理矢理?只野先生、まひるは遊ぶ女じゃないですよ。セフレとか愛人とか絶対無理なタイプだから。わかってます?」


「誰がセフレや愛人だと言った。俺達は婚約中だ」


「婚約!?まじで!?まひるが只野先生と!?」


「ギャアギャアと煩い女だ。一体何の用だ。近所迷惑だ、縁側で騒ぐな」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る