248

「情けない男だな」


 だけど、彼女が傍にいてくれれば、こんな俺でも変われる気がした。

 それとなく彼女に気持ちを伝えていたつもりだが、いまだに彼女の反応はない。


 そこで俺は、二人の関係を進展させるために思いきって彼女をこの旅行に誘ったのだ。

 旅先で小説を完結させ、彼女にプロポーズをする。


 これは俺の人生初のプロポーズだ。


 だが、彼女は小説の完結を待たず、湯中ゆあたりして早々と眠ってしまった。


 部屋に内鍵を掛ける彼女が、二つ並ぶ布団の上で無防備な姿で眠っている。


 俺が怖くないのか?

 俺は彼女にとって家主に過ぎない、いまだに男として見られていないようだ。


 言葉で伝わらない場合、どうすればいい?

 小説の主人公のように、やはり……行動で示すしかないのだろうか。


 入浴して体を清め客室に戻る。彼女の隣に座り、彼女の寝顔を暫く見つめた。女性の寝込みを襲うことは意に反する。

 大仏のようにじっと布団に座り、目覚めるのを待ち続けたが、彼女はぴくりともしない。


 よほど疲れているようだ。ならば、気が済むまで寝かせてやろう。


 待ち疲れた俺は隣の布団で眠ってしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る