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 ◇


「……先生」


 俺達は単なる同居人ではなく、この日、男女の一線を越えた。

 彼女は俺の腕の中で、恥ずかしそうに俺を見つめた。赤く染まる頬がとても美しく愛おしい。


「俺は人とのコミュニケーションは苦手だ。俺の至らない部分を理解してくれるのは、君しかいない。一時の感情で君を抱いたわけじゃない」


 温かな肌と肌が重なる。

 彼女を抱き締めたまま、口下手な俺は精一杯の気持ちを伝える。


「先生……ありがとうございます。初めてが先生で……嬉しかった……」


 彼女の言葉は俺の渇いた心を潤した。こんなにも幸福な感情で心が満たされたのは初めてだった。


「俺はまだ半人前だ。君のご両親に胸を張って挨拶には行けない。結婚は少し待って欲しい。俺の小説が出版社に認められ書籍化されたら、堂々と入籍したい」


「はい。先生、でも私がおばあさんになる前にお願いしますね」


「……っ、わかってるよ。意外と君は手厳しいな」


 彼女の華奢な手を握る。

 この美しい指に、いつか結婚指輪を……。


 彼女の左手を引き寄せ、薬指にそっと口づけた。



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