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 深夜露天風呂に入る者もなく、夜空を見上げながら一人湯に浸かる。

 小説を書き終えた安堵感から、彼女との関係性を改めて整理した。


 当初、行き場を無くした彼女に俺は住まいを与えた。それは同情だけではない。あの頃から、俺にとって彼女はなくてはならない存在だった。


 月日を重ねるごとに、彼女の内面的なものに癒やされている自分に気付く。

 俺にとって彼女は、もはやただの同居人ではない。


 チェックインした際に彼女が『妻只野まひる』と記入し、俺はその姓名の配列に不思議な感情を抱いた。


 幼少期より対人関係が苦手だった俺は、クラスメイトと上手く付き合えず少年時代は部屋に引きこもった。高校、大学に進学しても人間関係は何も変わらない。俺は他人を拒絶し孤独を好み、誰とも口をきかず自ら殻に閉じこもった。


 だがそんな俺に転機が訪れた。二十二歳で初めて執筆した小説が、地方新聞の公募で見事大賞を受賞したのだ。受賞を機にバラ色の人生が待っていると予測したが、俺の人生はずっとグレーのままバラ色になることはなかった。


 そんな俺にも一筋の光明が差す。

 大学卒業後、一人の理解者と巡り合う。けれど、唯一心を通わせることが出来た桂木由佳子に失恋し、追い打ちをかけるように女性詐欺師に騙され、俺は完全に人間不信に陥った。


 人とのコミュニケーション能力が欠落している俺は、就職もせず、叶わぬ夢を追い求め、小説を出版社に売り込むものの商業化に至らず、延々と無収入が続き、親の残した預金を食い潰す日々。

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