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 先生と視線が重なった。

 室内に沈黙が流れる。


「……先生」


 掠れた声……。

 団扇で扇いでいた先生の手が止まる。団扇がハラリと布団の上に落ちた。


 抱かれてもいい。


 一夜限りの妻でもいい。


 不埒なことが脳裏を掠める。


 これは……

 逆上せているから?


 私は今、平常心ではない。思考回路はショートし停止している。


 でも、先生は急に無言で立ち上がり、隣室に戻った。


 えっ?まさかのスルー?


 先生は座卓の上で一心不乱に万年筆を走らせている。


 レトロな蒸気機関車が、突然新幹線のように猛スピードで走り出し、頭から蒸気が吹き出すくらいの勢いだ。


 初めて見る……

 先生のこんな姿。


 何か……閃いたのかな。


 瀬戸や中条には悪いけど、私は王子様や癒し系よりも気難しくて俺様な吉岡が好きだ。


 不器用だけど人間味がある。

 負の感情を露骨に顔に出す吉岡は、上司としては最悪かもしれないが、琴子には三人の男性の中から吉岡を選んで欲しいな。


 だって吉岡は……

 先生みたいに真っ直ぐな人だから。



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