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「きっとこんな些細なことが原因で、男と女は簡単に急接近するのだな」


「……っ」


 なんだ、小説の話か……。


「そうかもしれませんね」


 先生は傍にあった団扇で私を扇ぐ。火照った体に心地よい風がそよぐ。


「さっき露天風呂で冴えない中年男と一緒だった。その中年男が露天風呂から出ると、若い浴衣美人が近付き、その男性と腕を組んだ。二人の会話から推測するに、どうやらハネムーンらしい。まさしく美女と野獣を絵に描いたようなカップルだった。男と女はわからんな」


 さっきの女性だ……。


「お二人には素敵な馴れ初めがあったのでしょう。夫婦の数だけ、素敵なラブストーリーがある。世界でたったひとつのラブストーリーです」


「成る程、君はなかなかいいことを言う」


「先生……、琴子にとって吉岡は大嫌いな上司ですが、初めての相手でもあった。琴子はあの日から、吉岡のことを好きになっていたのです。吉岡の本心が掴めなくて、琴子は寄り道をしたのかもしれませんね」


「寄り道……か」


「お互いが素直になれば、寄り道などしなくて済んだのに……」



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