239
「きっとこんな些細なことが原因で、男と女は簡単に急接近するのだな」
「……っ」
なんだ、小説の話か……。
「そうかもしれませんね」
先生は傍にあった団扇で私を扇ぐ。火照った体に心地よい風がそよぐ。
「さっき露天風呂で冴えない中年男と一緒だった。その中年男が露天風呂から出ると、若い浴衣美人が近付き、その男性と腕を組んだ。二人の会話から推測するに、どうやらハネムーンらしい。まさしく美女と野獣を絵に描いたようなカップルだった。男と女はわからんな」
さっきの女性だ……。
「お二人には素敵な馴れ初めがあったのでしょう。夫婦の数だけ、素敵なラブストーリーがある。世界でたったひとつのラブストーリーです」
「成る程、君はなかなかいいことを言う」
「先生……、琴子にとって吉岡は大嫌いな上司ですが、初めての相手でもあった。琴子はあの日から、吉岡のことを好きになっていたのです。吉岡の本心が掴めなくて、琴子は寄り道をしたのかもしれませんね」
「寄り道……か」
「お互いが素直になれば、寄り道などしなくて済んだのに……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます