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「あなたもハネムーンですか?」
「えっ?」
見ず知らずの女性に声を掛けられ、思わず視線を向けた。
「チェックインの時に素敵な旦那様と一緒にいらしたから。私はハネムーンなんですよ。今夜が……初めての夜なんです。触り心地のよい綺麗な肌になりたいですよね」
話し掛けてきた女性はとても美しく、湯から覗く鎖骨と撫で肩が女性らしさを引き立て、『初めての夜』という言葉が妙に色っぽい。
色白の肌はきめ細かく、頬はほんのり赤く染まってつるつるしている。
これ以上つるつるになったら、旦那様が体の上で手を滑らせちゃうよ。
「ご主人は素敵な方なんでしょうね」
「全然、主人は会社の上司でバツイチなの。一回りも年上で第一印象は最悪。最初は大っ嫌いな上司だったのよ」
女性はご主人とのなれ初めを思い出したのか、クスリと笑った。
小説に登場する吉岡はバツイチではないものの、琴子からすれば最悪な上司だ。
「大嫌いが大好きに変わったのは、いつですか?」
「忘年会のあとにね、悪酔いした私を彼がマンションまで送ってくれたの。嘔吐した私を彼が介抱してくれて、吐瀉物で汚れた床も嫌な顔ひとつせず綺麗に掃除してくれたの」
「床もですか?」
「衝撃的だったわ。他人が嘔吐した物を掃除するなんて、そんなことが出来る人ではないと思っていたから」
「優しくて思いやりのある素敵な人ですね」
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