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「なんだ、経験がないのか」
直球過ぎて言葉に詰まる。先生は残念そうに、お酒を飲んでいる。私が経験者でも先生は気にならないんだ。
少しくらい、気にしてくれてもいいのに。
旅行気分で浮かれていた私。先生は観光地でも小説のことだけを考えていたんだね。
「でも、社内恋愛をしている子はいましたよ」
「それは本当か?」
先生の瞳がキラリと輝きを放つ。
「はい。社内の内線電話でこっそり話をしたり、本人達はバレていないと思っていたみたいですが、同じフロアなので仕事の要件か私用かは何となくわかります。恋をすると自然と態度に現れますから」
「成る程な。女とは大胆な生き物だな」
私は話をしながら先生のお猪口にお酌をする。先生はグイッと一息に飲み干し、私を見つめた。
「あまり気は進まないが、食事が済んだら露天風呂に行ってみるとしよう」
「はい。私も女性専用の露天風呂に行きます」
客室に設置されたお風呂に入るのは、妙に意識してしまう。やはり、温泉に来たからには広い露天風呂だ。
食事を済ませ、二人で夕涼みを兼ねて宿の周辺を少し散策し、露天風呂に向かった。
中庭に面した女性専用の露天風呂は、竹林に囲まれ宿泊客からも表からも見られる心配はない。
少し熱めのお湯に浸かると、今日一日の疲れが一気に吹き飛ぶ。
「気持ちいい。本当にゆで卵みたいにつるつるになれるかな」
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