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 仲居さんが退室したあと、私は隣室に続く襖をそーっと開く。


 そこには……

 二組の布団と枕が仲良く並んでいた。


 思わず、ピシャリと襖を閉じる。


 トクントクンと……

 鼓動が跳ねた。


 やだな、何を意識しているの。


 食事のあとで一組の布団をこちらに移動すればいいだけ。

 そのために、二間ある客室を予約したんだから。


 お風呂から上がった先生が、料理に視線を向ける。


「美しい料理だ。君も風呂に浸かりさっぱりするといい」


「食事のあとに、ゆっくり入らせていただきます。先生、フロントで妻と書いてしまって本当に宜しかったのですか?」


「妻と書かなければ、従業員に邪心を抱かれる」


「そうですね」


「一夜限りの妻だ。不都合か?」


 一夜限りの……妻。


 その響きに、何故か……寂しくなる。


「浮かない顔だな。俺の妻と書いたことがそんなに不満だったのか?ならば妹にするべきだったかな」


「違います。そうではありません。お腹が空きましたね。先生いただきましょう」


「なんだ、腹が減りすぎて浮かない顔をしていたのか。遠慮なく食え」


「はい。そうさせていただきます」


 先生の好きな熱燗をお酌する。先生は私のお猪口にもお酌してくれた。



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