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でも、明らかに今日の彼女は苛ついている。
「何を怒っている?」
「何も怒っていません。私が怒る理由なんてありません」
「桂木由佳子を知っているか」
「有名なベストセラー作家ですから、存じ上げています。それが何か?」
店員が天ざるを目の前に置く。大きな海老天が蕎麦よりも存在感を主張していた。華やかさでいえば、桂木由佳子は豪華な海老天で、彼女は地味な蕎麦だな。
「俺は八年前、桂木由佳子と付き合っていた」
「先生と桂木先生が……」
「……と言っても、男女の関係はない。初恋にも似たプラトニックな感情だ。彼女と俺は同じように作家を目指していた。だが彼女は才能を認められ、デビュー作はベストセラーになった。君が知っている通り、俺は鳴かず飛ばずで現在に至っている」
「pamyuの連載の件は……」
「pamyuの連載は出版社の決めたこと。彼女は知らずに連載を引き受けた。そのことで昨日謝罪に訪れ、腰を痛めて動けない俺に料理を振る舞ってくれた」
「そうだったんですか」
「でも違った」
「えっ?」
「俺が飲みたい味噌汁の味ではなかった」
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