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 東京駅を出て蕎麦屋に向かう。案内しながらも俺の一歩後ろを歩く彼女は奥ゆかしい女性だ。蕎麦屋の暖簾をくぐると、店主の威勢のいい声がした。


「いらっしゃいませ」


 昼時間を過ぎて比較的空いた店内。席に座るなり俺は店員に注文する。


「天ざる二つ」


「はい、畏まりました」


 注文したあと、彼女に問う。


「天ざるで良かったかな」


「はい。あの……先生のお話とはなんでしょうか?」


「小説は第八章に突入だ。車中で瀬戸と情を交わした琴子は、一時の感情で過ちを犯し深い後悔の念に苛まれる。そこに……吉岡が再びモーションを掛ける。

 第九章と第十章だが、瀬戸と吉岡の間で揺れる琴子の前に、以前登場した取引先の男性社員中条が現れ、琴子にグイグイ迫るというのはどうだ?」


「はい。癒やし系男子が迫るのも意外性があって、いいと思います」


「女は人畜無害な癒やし系に弱いのか、はたまた鬼畜上司に弱いのか、王子様ともて囃されているイケメンの涙に弱いのか?君の意見が聞きたい」


「先生のお話って、小説のことですか?」


「そうだが。他に何があるというのだ」


「私は素人です。今まで女性視点をアドバイスしてきましたが、これからはプロの方に相談された方がいいのでは……」


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