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彼女が目を見開いた。
「只野君、今……好きな人がいるのね」
「い、いるはずがない」
「だって、只野君が人に御礼を言うなんて、只野君らしくないもの。ちょっと安心した。只野君、素直にならないと、相手は逃げちゃうよ。迷い猫なら、特にね」
彼女は肉じゃがの入った器に箸を伸ばし、じゃがいもを口に入れた。
「この肉じゃがとても美味しい。懐かしいお母さんの味ね」
「そうかな」
「その人に胃袋掴まれたなら、もう太刀打ち出来ないわね」
「勘違いするな。これは俺が……」
「只野君にこの味は出せないよ。……只野君、今すごくいい目してるね。初めて出逢った頃の只野君みたい。作家になりたいと、同じ夢を語っていたあの頃を思い出すわ。私は夢を掴んだけど、夢が叶うと大切な人を失うこともあるんだよ……。只野君、私、陰ながら応援してるから」
「……君」
「ご馳走さまでした。お台所を片付けたら帰りますね。今日、只野君に逢えて良かった。ずっと蟠りが残っていたの。これでやっと吹っ切れたわ」
彼女は俺に笑顔を向けた。俺の心に残っていた蟠りも、彼女と話が出来たことでようやく吹っ切れた気がした。
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