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「卑屈?そうだな。君の華々しい作家デビューを素直に喜べず、君と付き合えなくなった。俺は器の小さい人間だ」
「只野君……」
「正直、ここ数年書くことが苦痛だった。でも今は楽しみながら執筆している。書くことがこんなに楽しいとは思わなかった」
「そう。私も常にプレッシャーを感じてるわ。でもそれは、作家なら誰もが感じていること。私達だけじゃない。只野君……私、一人でいると息が詰まりそうになるの。パソコンの中の文字でしか、会話できなくなっている自分が怖いの」
「君が?仕事は順風満帆じゃないか」
「仕事だけでは満たされないものもあるのよ。只野君……私達もう一度やり直せないかな?私ね、純粋に夢を追いかけていたあの頃の自分に戻りたいの。只野君と一緒ならあの頃に戻れる気がするの」
「この俺と?」
俺は目の前に並ぶ料理を見つめる。肉じゃがとカレイの煮付け。
肉じゃがに箸を伸ばし、口に入れた。一晩寝かせた肉じゃがは、味が染み絶品だ。
「只野君……」
「君は俺なんかいなくても、やっていける。俺は……もう過去に戻りたくはないんだ。今、前に進まなければずっと埋もれたままになる。今夜は感謝している。訪ねてくれてありがとう」
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