刺激的な恋愛遍歴

直人side

206

「どなたかしら?」


 彼女がゆっくりと振り向く。


「猫だろう」


「猫?只野君、猫飼ってるの?それとも迷い猫?」


「みたいなものだな」


 彼女が首を傾げた。

 右斜め三十度、彼女の昔からの癖だ。


「夕飯、これでいいかしら?冷蔵庫の中の肉じゃがと、今作ったカレイの煮付けと、アサリの味噌汁」


「十分だ。君はどうしてここに来た」


 彼女は配膳しながら、俺に視線を向けた。


「重版が決まったと連絡をもらって、セシリア社に行ったの。その時、編集長から聞いたのよ。pamyuの連載、本当は只野君に決まっていたって」


「一樹の奴、余計なことを」


「私……全然知らなくて。もし知っていたら、pamyuの連載を引き受けなかったわ」


「君が気にすることはない。俺の小説が商業化に値しなかったというだけだ」


「……そんな。書籍化のチャンスを私が奪ってしまったなんて。本当にごめんなさい。編集者の相武さんに、あなたが腰を痛めて動けないと聞いたの。だからお詫びを兼ねて伺ったの」



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