205
「みやこ?」
靴を脱ぎ室内に入ると、台所からいい匂いが漂う。お魚の煮付け、お味噌汁の匂い。
台所には見知らぬ女性が立っていた。
長い黒髪、白いエプロン。スレンダーで美しい立ち姿。
先生は私に背を向けたまま、彼女を見つめていた。
あの先生が、他人に台所を使用させるなんて……。
台所に入り手料理を振る舞うということは、それだけ気心が知れた相手……。
もしかして……
先生の恋人?
先生に……
恋人がいたの?
思わず後退りした。
先生に恋人がいるなんて、今まで考えたこともなかった……。
ミシミシと床が鳴り、先生がゆっくり振り返る。先生と目が合う前に、私は屋敷を飛び出していた。
バカみたい。バカみたい。
『明日の朝は君の味噌汁が飲めないんだな』なんて言いながら、別の人にちゃっかり作らせて。
今さら浅草のホテルには戻れない。みやこのマンションにも戻れない。
涙が溢れ止まらない。
なぜ、涙が溢れるのか自分でもわからない。
行き場を失った私の足は、自然とある場所に向かっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます