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「父さん母さん……、ホテルの宿泊代は私が精算しとくから。私……」


「ぎっくり腰の先生が気になるんじゃろ」


「母さん……」


「ええよ、帰りんさい。母さんは父さんと二人で、ゆっくりさせてもらう。明日浅草見物したら広島に帰るけぇ、見送りもせんでいい」


「母さん……」


「まひるのこと、信じとるけぇね。はよ先生のところに帰りんさい」


「ありがとう」


 両親に頭を下げ、私は背を向けた。


「まひる」


 肩越しに聞こえた父の声。


「いつか、二人で広島に帰って来い」


「うん」


 父の優しさに涙が溢れる。温かい言葉を受け、ホテルの部屋を飛び出した私。

 はやる気持ちを抑え電車を乗り継ぎ、世田谷に戻る。


 お屋敷の門扉を開け、屋敷内に入ると庭から座敷の灯りが見えた。


「……先生」


 障子にぼんやりと人影が映る。

 でも……その人影はどう見ても男性ではなかった。


 先生らしき人物は、ずっと座敷に座ったままだ。


 そっと玄関を開けると、白いハイヒールがあった。



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