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 先生がそんな風に思ってくれているなんて、知らなかった。


「お味噌汁ですね。わかりました。すぐに作ります」


 先生と目が合い、心がじんわり温かくなる。

 モーニング珈琲ならぬ、モーニング味噌汁……。


 先生と二人で食べる朝食は、私にとって大切な時間。


 ◇


 朝食の後、先生をタクシーで整形外科に送迎し、午後からアルバイト先に向かった。


 先生からお給料はいただいていないため、アルバイトで稼いだ給料が私の生活費。

 家政婦の給料をいただかない代わりに、家賃も光熱費も食費も無料。


 先生の小説はいまだに商業化されず収入はないため、生活費は預金を切り崩していることは歴然。だから居候の身としては心苦しい。


 このお屋敷は敷地も延べ面積も広く、部屋はあり余っている。


 空室を活用し、今流行りのシェアハウスにすれば家賃収入も可能だけど、先生の性格上それは不可能。よって定収入の見込みもない。


 アルバイトを終え帰宅すると、玄関には男性の革靴と女性のパンプスが並んでいた。


 靴のセンスからして、みやことセシリア社の編集長ではなさそうだ。


 お客様かな?

 このお屋敷に居候して、初めてのお客様。


 もしかして……

 どこかの出版社!?



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