まひるside

191

「眠いのか?」


「……っ、何でもありません」


 先生と車中に二人きり。

 私の体の上には、先生が覆い被さっている。


 互いの鼻先が触れてしまいそうな至近距離にあり、ドキドキと鼓動は高鳴る。


 私、変なんだ。

 私、どうかしてる。


 先生の屋敷にお世話になり、恋愛小説のアドバイスをしている内に小説にのめり込み、自分が琴子と精神的に重なる時がある。


 私はまだ未経験で男性にはモテないし、主人公の琴子とは異なる。

 それに、先生は私を異性として認識していない。


 けれども小説のアドバイスをする時だけは、私達は男と女を演じ、互いにイメージを高める。


 車中で瀬戸に迫られた琴子。

 年下の男性に想いを寄せられ、その男性の弱い部分を見せつけられたら母性本能を擽られ、男性の気持ちを受け入れてしまうかも……。


 琴子の心境を想い、瞼を閉じる。


 何かを期待したわけではない。


 でも先生、この状況で『眠いのか?』は、ないでしょう。


 私達一応抱き合ってるし。

 それは先生が腰を痛めたからだけど。


 私達の体、互いの心音が聞こえそうなくらいこんなに密着しているのに、異性として何も感じないのかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る