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 車の所有者が一樹とは正直不快だが、小説のためだ、そこは目を瞑るとしよう。


 深夜、家の敷地内に車を停め俺達は乗り込む。運転免許を持たない俺が運転席に座れるのは敷地内で停車している時だけ。


 彼女は琴子になりきり、助手席に乗り込む。


「仕事でミスをした瀬戸は傷心し、得意先から帰社する途中、琴子をホテルに誘ったが断られ、河川敷に車を停め抱き着く」


「はい」


 庭の柳の枝がもつれ合う男女のようにゆらゆらと揺れた。イメージは掴めた。あとは二人のラブシーンだ。


「車で行為に及ぶには狭いな。俺が体を捻り君に抱き着きリクライニングを倒す。失礼、試させてくれ」


 俺は彼女に抱き着いた。

 この場合、やはり運転席から助手席に乗り移った方がいいのか?


 体を移動させようと思ったが、下駄が引っかかり足が抜けず身動き出来なくなる。


「先生、それは無理です。運転席から、琴子に……。きゃあっ!」


 慌てた俺はリクライニングを倒してしまった。


 ガタンッと音を鳴らしシートが倒れ、俺は体を捻ったまま彼女の体の上に落ちた。

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