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彼女は不思議な生き物だ。
控え目で消極的な性格だと思っていたが、小説のストーリーを考えている彼女は別人のように積極的だし、生き生きしている。
意外と、俺よりも作家に向いているのかもしれないな。
「第三章では同僚との密事を目撃した上司が、反撃に出るのはどうでしょう」
「反撃?」
「上司は部下である瀬戸に激しい嫉妬を抱き、かといって素直にアプローチ出来ず、さらに彼女に冷たくあたる」
「女は男に冷たくされても、異性として意識するのか?腹はたたないのか?」
「それは相手によります。好意を持つ相手なら、冷たくされればされるほど動揺し意識しますよ。上司は琴子の初体験の相手。それは同意の上の行為。上司は琴子にとって忘れられない存在です。同じ職場でなければ、一夜の恋を引き摺り、その恋に溺れていたかもしれません」
「初体験の相手は、そんなに強烈な存在なのか」
「男性もそうではありませんか?」
彼女は俺に視線を向けた。
確かに初体験の相手は強烈に覚えている。
初めて交際した女に振られ、酒に溺れた俺は見ず知らずの女を抱いた。俺の初体験の相手は結婚詐欺師だった。
二十五歳の俺は、まんまと女に騙され預金を奪われ、その日を境に人間不信となった。
その俺が、今、彼女とこうして一緒に暮らしているなんて、自分でも信じられない。
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