181

 鼓動がトクトクと大きな音を鳴らす。


「ここが給湯室ならば、女性はどんな感情を抱く?」


「急に抱き締められた驚きと、誰かに見られるのではないかという緊張感から……気が気ではありません」


「なるほど。やめて欲しいと思うか?」


「……同僚に突然抱きすくめられたなら、戸惑いますね。でも嫌いな人でなければ、これをきっかけに異性として意識します。もしも関係のあった上司なら、とても焦りますね。誰かに見られたら関係性を否定出来ない分、冷静でなんていられない。かといって嫌なわけでもない」


「なるほど、同僚は異性として意識し、関係のあった上司ならば焦るが嫌ではないか。ありがとう参考になった」


 只野さんは抱き締めていた手をアッサリほどく。一人でぶつぶつ言いながら、机に座り執筆を始めた。


 もう自分の世界に入っている。

 私のことは完全に忘れてる。


 でも……

 なんか嬉しい。


 私、只野さんの役に立ててるのかな。


 私、只野さんが執筆している姿、好きだよ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る