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「社内恋愛は秘密の恋。給湯室、会議室、倉庫、駐車場、屋上、オフィスビルで繰り広げられるあらゆるシチュエーションを設定しないと、読者はドキドキしません」


「君は意外と大胆なことをするのだな」


「私ではありません。小説の主人公、琴子ことこのことです。恋に臆病だった女性が、男性に求愛され愛に目覚める。この場合、性に目覚めるといった方が正しいのかな」


「なるほど。しかしその描写を文章にするには、頭の中でイメージするだけではピンとこないな」


「只野先生、台所がオフィスの給湯室だと思って下さい」


「ふむ」


「こちらへ」


 私は台所に立ち水道の蛇口を捻る。水がポタポタと落ちる程度だ。


「ここが仕切られた狭い給湯室だと思って下さい。廊下では社員の声がする。誰かに見られそうで見えない空間に二人きり、ドキドキしませんか?」


「なるほど。同僚が彼女を抱き締める。前から?」


「背後からかな……。その方が女性はドキッとします」


「こうか?」


 只野さんが背後から私を抱き締めた。只野さんと視線が重なる……。


 トクン…

 トクン……。



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