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 只野さんは両手で荷物を掴み、無言で二階に上がる。ギシギシと階段が鳴り、その後ろをゆっくりとついて上がる。


「これだけしかないのか?まだ荷物はあっただろう」


「布団やパイプハンガーはみやこから借りていたので、私物ではありません。あと身の回りの小物が、段ボール箱に一箱あるだけです。それは後日取りに行きます」


「段ボール箱?わかった。俺が運んでやるよ」


「ありがとうございます」


 二階の内鍵つきの部屋。

 只野さんが思春期に過ごしたという部屋だ。


 室内にドカッと下ろされた荷物。昨日掃除したから、埃が舞うこともない。


「タンスの中はさっき空にした。君が自由に使うといい」


「ありがとうございます」


 只野さんは部屋の窓を開ける。爽やかな風がスーッと室内に吹き込む。


 監禁されていた時。

 窓はずっと雨戸が閉まったままだった。太陽の光も空の青さも、風も感じることはなかった。


 穏やかな空気が室内を包む。


 この部屋には内鍵がある。

 でもロックするか、しないかは私……次第。



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