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「ただいま戻りました」
「お帰り」
只野さんの口から、『お帰り』という言葉が飛び出し、私は驚きを隠せない。
只野さんはそんな言葉を交わす人には見えなかったから。
嬉しくなり、もう一度聞きたくなった。
「只野先生、ただいま戻りました」
「何度も同じことを言わなくていい。一度言えば聞こえている。君は若いのに耳が遠いのか?」
やっぱり只野さんはそうだよね。そんな只野さんも、今は嫌いじゃない。
右手にキャリーバッグ。左手にボストンバッグ。荷物を抱えた私に、只野さんが手を差し伸べた。
「貸せ。二階の部屋まで運んでやる」
「ありがとうございます」
キャリーバッグとボストンバッグを掴む只野さん。私と指先が触れ、只野さんが困ったように目を泳がせた。
他人なのに、異性なのに、店長みたいに怖いという恐怖感がないのは、何故だろう。
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