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「編集長、まひるは昨日解放されたばかりなの。そんなの書けないよ」


「記憶が新しいからこそ、生々しい文章が書けるはず。監禁される前後の出来事や会話、犯罪に巻き込まれたリアルな気持ちを日記のように綴るだけでいい。文章はこちらで責任を持って校正する」


「すみません。その話はお断りします。それより、差し出がましいようですが、只野先生の原稿はお二人のことを書いたものではありません。それだけは信じて下さい」


「君、只野先生と付き合っているのか?彼は作家として、大成はしないよ。彼の小説はインパクトがない。はっきり言えば、作家としての才能がない」


「いつかきっと……、只野先生の作品は世に認められます。私、只野先生の作品が好きです」


「君……」


「みやこ、今までありがとう。お世話になりました」


「まひる、私も只野先生のこと応援してる。またここに遊びに来てね」


「うん」


 両手に荷物を持ち、みやこのマンションを出る。


 みやこの恋がやっと開花したね。


 恋多き女。寂しがりやのみやこ。


 これでもう寂しくないね。


 幸せそうな二人を見て、心がほっこりする。一刻も早く二人のことを只野さんに報告したくて、足早にお屋敷に戻った。


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