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「君の味噌汁を飲むと、なぜかホッとするんだ」


「ありがとうございます。只野先生、私この家に荷物持って来ていいですか?荷物といっても、衣類くらいしかありませんが……」


「あの物置の荷物か」


「物置?やだ、見たんですか?」


「見た。僅かなスペースに布団は敷けるが、あれではネットカフェと大差ない。家の物置よりも劣る。そうだ、これを君に」


 俺は彼女の作ったストラップを机の抽斗ひきだしから取り出す。


「これは……みやこにプレゼントしたもの」


「店長が持っていた赤いケータイについていた物と酷似していた。だからすぐにピンときたんだ」


 警察から返却され、赤い携帯電話は彼女の手に戻っていた。

 赤い携帯電話につけているものとは色違いのストラップ。


「もしよろしければ、それは只野先生が持っていて下さい」


「いいのか?」


「はい」


「では、もらっておくよ。だが、俺はつけないけどな」


「どうしてですか?せっかくなので、つけて下さいよ」


「こんなに重いものをつけろというのか?ケータイとは通信機器。数珠を装着する必要はない。味噌汁のお代わりをくれ」


「はい。……それ数珠ではなく、ストラップなんだけど……」



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