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 只野さんは私の手をぐいぐい引っ張って歩いている。

 繋がれた手は、ゴツゴツしていて父の掌よりも大きい。


 只野さんのお屋敷に着いた私は、一気に緊張が解け座敷にへたり込む。


 あのマンションで殆ど熟睡は出来なかった。店長に寝込みを襲われる不安が常にあったから。恐怖と飢えで精神が壊れそうだった。その反面、生きるために店長に従うことも何度脳裏を過ったかわからない。


「君は世間知らずの大バカ者だな」


「……はい」


「うまい話が、そうそう転がっているわけないだろう。のこのこついて行くからだ」


「……はい」


「危害を加えられなかったのは、運が良かっただけだ」


「……わかっています」


「俺が通報しなければ、君は今も籠の鳥だ」


 そんなに……

 責めないでよ。


 涙が溢れ……

 嗚咽が漏れる。


「俺がどれだけ心配したと思っている」


「……ぇっ?」


「君がいなければ……俺は……」


 まさか……

 只野さんが……私を?



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