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 警察官に保護され、私は狭い鳥籠からやっと外の世界に出る。

 解放された安堵感から、体の力が抜け床にへたり込んだ。


「君、大丈夫か」


 警察官とは異なる、懐かしい声がした。

 目の前で着流しの裾が揺れている。


「只野……先生。やっぱり……只野先生が……」


「一か八かの賭けで警察に通報した。俺の力ではドアを抉じ開ける事は出来ないからな」


「ありがとうございました。ありがとう……」


 涙が溢れ……視界が霞む。


 警官が優しく声を掛けた。


「お嬢さん、署まで同行願えますか?事情聴取させて下さい」


「……はい」


「俺も署で待っててやるから、行ってこい」


「……はい」


 只野さんに対して……

 不思議な感情が沸き起こる。


 今まで只野さんを敬遠していたのに、只野さんに逢えて、心から安堵している自分がいた。


 ◇


 長時間の事情聴取を終え、取調室を出ると、廊下にはみやこと只野さんの姿があった。


「まひる!」


「……みやこ」


 みやこに抱き着き、私は声を上げて泣いた。


 本当は只野さんに抱き着き……泣きたかったけれど、それは……できなかった。



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