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 非常階段のドアには手動で外せる内鍵があった。

 俺は内鍵を開け非常階段に身を隠す。ドアに聞き耳を立て、人の気配を感じ取ろうとしたが、一向に居住者のドアは開く気配はない。


 非常階段から各部屋の窓を見ると、異様なことに気付いた。


 一番奥の部屋だけ、台風でもないのに雨戸が閉まっていたのだ。


 おそらくあの部屋が監禁部屋に違いない。


 だとしたら、そこに……彼女が。


 非常階段から再び三階に侵入し、一番奥の部屋に向かった。

 チャイムを鳴らすが、人の気配はない。


 危険を覚悟で、ドンドンとドアを叩く。


 だが応答はない。


 ドアを叩き続けていると、隣室のドアが開き、ロン毛にピアス、派手な赤いシャツを着た若い男が顔を出す。


「あんた誰?」


「俺は……新聞の勧誘だ」


「新聞?この階は不要だ。どの部屋も空室だ」


「空室?君はその部屋の住人だろう」


「俺はこのフロアの管理人兼ここは俺の事務所だから」


「事務所?一体何の事務所だ」


「オッサン、とにかく新聞はいらねぇから。さっさと帰りな」


 ドアはバタンと閉まる。


 ――その時……

 聞こえたんだ。


 室内から……

 携帯電話の音が……。


 やはり空室なんかじゃない。



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