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「よせ、土下座は無用だ。俺の作品が商業化に値しなかっただけ。君に落ち度はない」
「只野先生って……意外といい人なのね」
担当がいきなり俺に抱き着いた。かなり酒臭い。
耳たぶに触れそうな唇。鼓膜を擽る甘ったるい声がした。
「抱いて……」
「なに!?」
担当は俺に抱き着いたまま、酔い潰れてしまった。
やはりコイツは酔うと男を誘うのか。『抱いて……』とは、本人が自覚していないだけで、酔った時の口癖のようだ。これでは一樹が憤慨するのも無理はない。
「しょうがない女だな。これでは男の思うつぼだ。自分を安売りするな」
担当を抱き上げ、部屋に入りベッドに寝かせた。
――掲載は見送り、書籍化の契約も泡と消えたか……。
これで当分無収入確定だ。
また一から出直しだな。
我ながら傑作だと思ったが、一樹の性癖と酷似するとは。なんということだ。
あの一樹がテクニシャンだとは、到底思えない。自信過剰もいいところだな。
俺は担当からもらったストラップを手に、マンションを出て自宅に戻る。
『晴れの日に天の兆しに注意』
あれは俺の顛末を予言したものだったのか?
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