138

 担当はがさがさとバッグの中を漁るが、残念なことにストラップは見つからない。


「ストラップなら、マンションにあると思います」


 店員がオーダーした品をテーブルに並べる。


「ご注文は全てお揃いですか?」


「問題ない」


「どうぞごゆっくりお召し上がり下さい」


 担当はすぐにフォークとナイフを掴み、ステーキを切り分けると豪快に食い始めた。まるで血に飢えた獣みたいだ。


「これを食ったら、君のマンションに寄らせてもらう」


「只野先生、一度あんなことがあったからといって勘違いしないで下さい。頻繁にマンションに来られては困ります」


「君こそ勘違いするな。俺は彼女のストラップを見たいだけだ」


「とか言っちゃって。下心ありありなんだから」


「バカにするな。俺は女に不自由はしていない。どうしても確かめたいことがあるんだ」


「わかりました。ではお話の続きも、ここでは落ち着かないのでマンションでいたします」


「わかった。では食事をいただくとしよう」


 セシリア社から原稿料が入らなければ、外食なんて当分出来ないかもしれないな。貧乏生活には慣れている。それも致し方ない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る