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 その時、ファミレスの前をKAISEIの店長と、さっき見かけた女子店員が通り過ぎた。上司と部下なのに、人目も憚らずイチャイチャしている。


「あいつ、もう新入りに手を出したのか」


「彼女が新しい派遣社員ですか。若いし美人ですね。それにまひると違って要領よさそう」


「容姿も年齢も女性としての華やかさも、完全に負けているな」


「只野先生、それは言い過ぎですよ」


「あの店長はいい歳をして、女みたいな赤いケータイを持つ男だ。見るからにハレンチ極まりない」


「赤いケータイ?男性も赤いケータイくらい持っていますよ。それは只野先生の偏見です」


「しかも数珠のようなセンスのないストラップをつけていた。悪趣味にも程がある」


「奥様か娘さんからのプレゼントかもしれませんよ。……そういえば、まひるもストラップ作るのが趣味でしたから」


「彼女も?」


「はい。マンションを出る前日、まひるからもらったんです。でもダサくてケータイには付けれなくて」


「ダサい?彼女のセンスは確かにダサいからな」


 担当は雑談を切り上げ、仕事へと話を戻そうとするが、俺はそのダサいストラップが妙に引っかかった。


「それでですね。連載のお話ですが、只野先生……」


「おい、君。彼女の作ったストラップを、俺に見せてくれないか?」


「まひるのくれたストラップですか?まひると色違いなんですけど。バッグの中にまだあったかな」



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