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 ――その時、ガチャンとドアが開く音がした。


 私は思わず玄関に視線を向ける。香ばしい匂いが空っぽの胃袋を刺激した。

 玄関には、ピザやチキンなど沢山の食材を持った店長の姿。


「ごめん、急に海外出張になって来れなかったんだ。食材はもう尽きたかな。お腹空いただろう」


 差し出されたピザ……

 温かなぬくもりとピザの匂いに、我慢出来ず箱を開け貪るように両手で掴んで食べた。


 人は飢餓状態になると、正しい判断が出来なくなる。


「そんなにお腹が空いてたのか。沢山食べていいんだよ。君は僕の可愛い小鳥なのだから」


「……ありがとうございます」


「今日は随分素直だね。もう仕事には慣れたかな。今夜は泊まっていこうかな」


 思わず、食事をしていた手が止まる。


「まだ僕を嫌ってるの?僕が来なくていいのかな?」


 思わず首を左右に振る。

 これは生きるため、食べ物を欲してるだけだ。


 店長を欲してるわけじゃない。



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