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 安堵したのも束の間、このフロアに店長の仲間が潜んでいることを知る。


 私が逃げ出さないように、見張り役がいるんだ。


 玄関に置かれていたのは、特上の鰻重。

 小鳥を飼い慣らすみたいに、餌を与え危害を加えず、私が心を許すことを待っている。


 それとも……

 これはゲーム?


 私がいつ、どのようにこの密室から逃げ出すか、観察して楽しんでいるの?


 その翌日も、その翌々日も店長は姿を見せなかった。差し入れは鰻重を最後に途絶えた。冷蔵庫に入っていた食材を食べ空腹をしのぐが、食材は少しずつ減っていく。


 外部との繋がりは、【桃色恋愛カウンセラー】だけ。だけど【NGword】により、外部に助けを求める書き込みは一切出来ない。


 一週間後、ついに冷蔵庫の中身はマヨネーズやケチャップだけになる。


 こんなことなら、よく考えて食事をすれば良かった。

 空腹に耐えきれず、水道水をがぶ飲みする。


 閉鎖された空間。このまま店長が来なければ私は……。

 空腹と恐怖で頭が変になりそうだ。



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