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 担当は俺を残し、そのまま駅に向かった。

 一樹と男女の関係を持ちながら、職場で平然と仕事をしているなんて担当も意外と図太いな。


 一樹も一樹だ。不倫でオフィスラブとは、次期社長のすることか。


 ――帰宅した俺は、原稿用紙を取り出し第二章の執筆を始めた。

 主人公は同じ職場にいながら、上司との情事を引きずっている。


 小説の主人公は彼女なのに、彼女が消えた途端、脳内で担当と一樹の淫らな姿がちらつき筆が思うように進まない。


 彼女は俺のことをストーカーだと思っていたのだろうか。

 ここに宿泊した彼女は、俺の原稿を読みながら目を輝かせていた。

 彼女に嫌われていたなんて、想定外だ。


 こんな時、桃色に相談出来たら……。

 パソコンを開きかけ、思いとどまる。


 今さら桃色に相談なんて出来ないな。

【カウンセリングは終了します】と、けんもほろろに突き放されたんだ。


 擦りきれた畳の上に、ゴロンと寝転がる。台所に目をやると、炊事している彼女の後ろ姿を思い出した。


 あの日、俺は彼女の背中を見つめながら、台所に立つ母の後ろ姿を思い出したものだ。

 母は専業主婦で控えめな女だった。


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