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「それは困る。何としても誤解を解かなければ」


「私だって困りますよ。お酒を飲めば、誰でもいいって訳ではありませんから」


「それはどういう意味だ。失敬な」


「すみません。だって本当だもの」


「それより服を着ろ。目障りだ」


「只野先生こそ、失礼ね。目障りとは何ですか」


 担当と言い争っていると、玄関がガチャンと開く。


「まひる?」


 俺と担当は思わず部屋から飛び出す。俺の着流しの裾は乱れ、担当は下着姿に男物のシャツだけだ。

 その淫らな姿を、眉を顰めながら見つめていたのは、スーツ姿の男性だった。


「只野君……」


「一樹、お前こそどうしてここへ?」


「貴様こそ、ここで何をしている!」


「やだ、編集長勘違いしないで。私と只野先生はそんな関係じゃないから」


「そんな格好をして、どんな関係だと言うんだ!」


「これには事情があるの」


「事情ではない、情事だろ。作家と担当のあるまじき行為。上司としてこれを許すわけにはいかない」

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