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「それはどういう意味だ」


「只野先生、こっちに来て」


 担当は煙草を灰皿に捻り潰し、下着姿のまま立ち上がると俺の手を掴んだ。

 豊満なバストに括れたウエスト、なまめかしい女体を前に、俺は目のやり場に困りどぎまぎしている。


 それに気付いたのか、担当は男物のシャツを羽織った。


 隣室のドアを開けると、三畳ほどの洋間に布団が畳まれ、パイプハンガーにはセンスの悪い地味な洋服が並んでいた。


「ここがまひるの部屋なの」


「物置ではないのか?」


「まひるの部屋です。荷物は全部残ってるし、貴重品もケータイの充電器も残ってる。引っ越すなら全部持っていくはずでしょう」


「確かに……不自然だ」


「まひるは一夜のアバンチュールを楽しむタイプでもないし、前の日にKAISEIグループの企業で正社員になれるって嬉しそうに話してたの」


「KAISEIグループの企業で正社員?問い合わせてみるか」


「そうですね。私が電話してみます。まひるは私が男性と一緒に帰宅すると、必ずネットカフェに泊まっていたけれど、先日違う場所に泊まったことがあるの。もしかしたら、そこかもしれないし」


「違う場所?」


「はい。只野先生から原稿をいただく前日だったかな」


 それは……俺の家だ。


「そこに転がり込んでるのかな。もしかして深夜に帰宅して、只野先生の下駄を見てまた外出したとか?」


 彼女に、俺達の関係を誤解されたと?

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