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 自分は店長に監禁された。

 今の今まで、そんなことにも気付かないなんて。


 脱衣所や浴室、トイレを確認するが、やはり窓はなかった。

 

 三階のフロアは全て、店長が所有している……。

 それは、大声で助けを求めても、外部からの助けはないことを意味している。


「……そうだ、ケータイ!!」


 携帯電話は店長に預けたままだ。

 もはや外部との繋がりは遮断された。


「パソコン……」


 せめて、パソコンで誰かに助けを……。


『パソコンは僕のパスワードがないと開かないからね。『桃色恋愛カウンセラー』を閉じると全てがシャットダウンする仕組みになっている。そうなると自分で開くことは出来ないよ。即ちパソコンからは個人的なメールは出来ないということだ。いいね』


 店長の言葉を思い出す。

 このままもしサイトを閉じたら、店長が操作しない限り二度とパソコンを起動することは出来ない。


 唯一、私に残された外部との通信手段は、【桃色恋愛カウンセラー】しかないのだ。


 救いを求め、ユーザーの質問に、【目黒駅近くのマンションに監禁されています。助けて下さい。】と入力したが、画面に【NGword】と赤字が点滅し、エラーになって送信することは出来なかった。


 その後、助けを求める書き込みを何度も試みたが、どれも【NGword】と表示され、エラーとなる。


 冷蔵庫の中には数日は暮らせる食材。レトルトや電子レンジ対応出来るものの他、スナック菓子や果物。室内に電子レンジはあるけれど、キッチンのガスは止められていた。

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