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「わかりました。一晩考えさせてください。今夜はお言葉に甘えて宿泊させていただきます」


「そうか。思った通り、君は素直な女性だな。君が僕を選んだことを、後悔なんてさせない。この部屋で欲求不満の男にアドバイスをしながら、僕との愛を育んでくれればいい。君がその気になるまで、僕は待つよ。強引に奪うのは僕の主義に反するのでね。今夜はこのまま帰るとしよう。楽しみは暫くおあずけだな」


「……おやすみなさい」


 恐怖から、速まる鼓動。

 声を荒らげず、穏やかな顔で店長を見送る。


 ドアの外からガチャンと二回音がした。鍵を閉めた音だ。ドアに近付き驚愕した。内側からはロックを解除することが出来ないのだ。


 外側からの二重ロック……。

 内側からの解除も、鍵がないとできない仕組みになっている。


 ……まさか。


 室内に戻り、ずっと閉め切ったままになっていた赤いカーテンを開けた。部屋に入った時からすでにカーテンは閉まっていて、照明が点いていたため気付かなかった。


 窓の外は雨戸が閉められ、やはり内側に鍵穴がある。全ての窓は外部と遮断され、閉ざされていた。


 鳥籠……

 ここは陽の当たらない牢獄……。

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