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「空になった鳥籠は寂しくて、新しい小鳥を飼いたくなったんだ」


「鳥籠……」


「君は男を知らないだろう。世間知らずでスレていない。純粋ですぐに人を信じてしまう。このマンションの三階フロアは全て僕が所有しているんだよ」


「……私、そんなつもりで来たわけではありません。仕事がしたくて、ここに来たんです」


「これも立派な仕事だよ。僕の可愛い小鳥ちゃん。しっかり食べなさい。君は僕が食事を運ばないと、生きてはいけないのだから」


 初めて……

 自分が愚かな人間だと悟った。


 単純で他人を疑うこともない、愚かな人間。


 失敗ばかりしていた私が、いきなりKAISEIグループの正社員に起用されるはずなんてないのに。


 私は店長に騙されたんだ……。


 でも今騒げば、店長はどんな手段に出るかわからない。


 店長が帰宅したあと、ここから逃げ出そう。しつこくされるなら、警察に相談すればいい。

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